【走る理由】君のいた風景は今もそこに〜ランニングパートナーが天国に行った日〜

MA-SAN
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世の中犬派と猫派がいるらしいですけど何方かといえば犬派ですよ、まっさんです。先日5/29は我が最愛のランニングパートナーリズちゃんがいなくなった日でした。今日はリズちゃんについてちょっと書いてみます。

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リズちゃん ダルメシアン 雌 8歳

リズちゃんとの出会い

梅雨の合間の気持ちよく晴れた日に私とリズちゃんは出会った。
とある仕事の用事で行った犬の保護施設で殺処分対象になっていると言う犬がリズちゃんだった。
どことなく諦めかけたような憂いのある表情だが、芯の通った眼差しで突然現れた私のことをいぶかしげに見ていたのが印象的だった。
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リズちゃんは小屋の中につなぎっぱなしにされていた。おしっこもうんちも垂れ流しだ。なんでも攻撃性が強く人を噛みまくると言うことで飼い主から捨てられたとのこと。その後も2度ほど飼い主が変わるも結局手放され殺処分対象になったそうだ。
遠くから見た感じでは彼女にそんな攻撃性は無いように見えたし、眼をそらすことなくこちらを見つめる表情だけが印象に残っていた。
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太っていた。体重なんと32kg。
保護施設の方も血統の良いダルメシアンと言うことでいちどは保護したものの餌をやる時だけしか近寄らせてくれずやはり噛まれてしまうと言うことで仕方なく殺処分にすると言うことだった。その時点でリズちゃんは保健所に行くまでに3日間の猶予があった。

「あと3日間しか生きられないんだ、可愛そうだな。」
というくらいの気持ちでその日は帰宅した。

リズちゃんと私

その当時私もいろいろあって独りになったばかりという事情もあり、何度となくリズちゃんの表情を思い出してしまった。諦めかけたように殺処分を待ちつつもじっとこちらを見つめていた表情が頭に残って離れなかった。

ダルメシアンで検索していろんなブログも読んだ、動物病院に相談しに行ったりもした。

その中で心に残ったのが「犬の十戒」と言う犬を飼う上での心構えだった。
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犬の十戒 – Wikipedia
↑「犬の十戒」Wikipediaより↑

リズちゃんにとって生まれて来たのにこの十戒のひとつも守ってもらえたことがない。
こんなまま保健所に送られるのではあんまりな可哀想ではないか。

さんざん迷ったあげく、明日処分されるという日に、私はリズちゃんを迎えに行くことを決めた。

名前は何にしようかと考えたけど血統書に「エリザベス」と入っていたので愛称の「リズ」にすることにした。

リズちゃんを車に乗せるのが一苦労だった。遠くで見ていた時は哀愁を称える眼差しでこちらを見ていただけだったが、触れる距離に近づくと表情は何かに取り憑かれたように一変し狂ったように暴れた。

噛むというのはわかっていたから、私は古い革ジャンを着て革手袋という厳重体制、それでもリズちゃんの犬歯は革ジャンを貫通して私の前腕に突き刺さった。

このコの哀しみが伝わってくるようで、噛まれたけどなんだかちっとも痛くなかった。

それよりも手入れのされていないリズちゃんのひどい悪臭の方が辟易した。

リズちゃんと動物病院

2度ほど噛まれて車に乗せた後、腕から血を流しながら向かったのは動物病院。
事前に相談していた一式の処置をしてもらうためだ。
それは健康診断、爪切り(爪が伸びすぎていて歩けなかった)、避妊処置、犬歯の抜歯、洗浄(3回くらい洗ったらしい、それでも臭いが取れなくてバリカンで毛を短くしてくれたと。)

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散々迷ったけれど飼うと決めたからには、最善を尽くす決断をした。獣医さんとも散々相談をした結果だ。

犬の犬歯に関しては食事の時に使用する事はなく、抜歯しても問題がないと言う事だったので抜いてしまうことにした。(ついでに歯磨きもしてもらった。)歯を見ると年齢がわかると言うことで当時のリズちゃんの年齢は4歳位との事だった。

麻酔をかけて手術等と入院費、かなり安くしてもらったが、十数万円。翌日、リズちゃんが退院した。

もう一つ衝撃的な事実がわかった。リズちゃんの耳が全く聞こえていないと言うことだった。

そしてリズちゃんが我が家に来た。歯が痛むのか最初二日間はほとんどうずくまったままで時々水を飲むだけだった。

「なんだ、静かにしているじゃないか。」
と思ったのもつかの間。そこからの二人三脚は、いばらの道だった。

リズちゃんが噛むのはなぜ?

リズちゃんが噛んでも犬歯がないので、大きな怪我にはならなかった。
しかし体重30キロを超える犬に噛まれるとやはり手足はアザだらけになる。

なぜ、噛むのか?
答えは簡単だ、怖がっているんだ。
最初に噛まれた時に分かった。このコは噛みたくて噛んだんじゃない。
怖いと逃げる犬がいる反面、攻撃してその場をやりすごそうとする犬もいる。
逃走と闘争ってやつだ、リズちゃんは後者だ。

リズちゃんは耳が全く聞こえないと言う先天的障害があったから今までの飼い主の言っていることがわからなかったのかもしれない。そして怖がりになり人を噛むようになったのかもしれない。

触ろうとして手をかざすと防御姿勢をとる。きっと叩かれまくったんだ。
人間の手は撫でてもらうものではなくこのコにとっては恐怖の対象でしかない。
とにかく信頼関係を作るしかない。噛まれても噛まれても耐えた。
笑顔で見つめた。
(僕は痛いけど好きなだけ噛んだらいい。でもそれってなんの意味があるんだい?まぁ好きなだけ噛むといいよ。といった具合に。)

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お揃いの模様の家だって作った。昼間はいつも日向ぼっこ、夜は家の中の階段下スペースがリズちゃんの家だ。夜は時間のある限り話しかける。聴こえてなくたっていいんだ。1週間もすると話しかけている時はきょとんとした表情でこちらをみるようになった。(何をしているの?私は聴こえないのよ。あなたが何かパクパクしたって私は何もわからないんだから。というように。)時には一緒にテレビを見たりした。

私は信頼関係を築くために犬を飼った人がまず99%行うであろう散歩をすることにした。
どんな犬だって散歩は大好きなはずだ。
リードを持って近づけば噛まないようにもなって来た。
しかしそこでも大問題、産まれてからほぼ繋がれっぱなしのリズちゃんは太っていてほとんど歩けなかったのだ。

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ストレスが強く、食事制限をしたら革靴も食べられてしまった!
食事はコンニャク主体のダイエット食。一緒に犬小屋で食べたりもした。

散歩は毎日毎日少しずつ距離を伸ばした。最初は2.3分だったがだんだん30分、1時間と歩けるようになった。太ったヨロヨロ歩くリズちゃんを連れて歩くのはなんだか恥ずかしかった。でも胸を張って歩いた。

そして走れるようになるまで半年、その頃には我々の信頼関係も厚いものになっていた。
ピカピカの毛並み、スレンダーな体型、チラチラとこちらを見ながら歩くリズちゃんはどう見ても半年前の姿とは違ったはずだ。もっと胸を張って歩いた。

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走りまくって体重は32kg→17kgに!約半分だ。
見た目も超かっこよくなった!!

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どこに行くのもいつも一緒!
九州から青森まで旅はいつも一緒に。

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日本海も太平洋も一緒に泳いだ。

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玄関はリズちゃんの住処になった。
表情もとても優しくなった。
怖がりなだけで本当はとても優しいコなんだ。

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1週間に2回は一緒にお風呂。
白い犬はすぐに汚れて大変だけどリズちゃんはお風呂も大好きだった。

マイコース11kmとは

私が今でもジョギングで走っているのは、家から多摩川まで行き河川敷を走って帰ってくる11kmのコース。信号もなく遊歩道をたどったコース。

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走るのが大好きだったリズちゃんがとにかく楽しみにしていた1日2回のビックイベントだ。

この11kmを毎日朝晩走る。
当時今のようにGPSウオッチなどなかったし、距離やペースは気にしてなかったけど月間300kmは走っていただろう。

ジョギングに出かけるかどうかは今でも迷うが、リズちゃんの散歩は迷う暇などなかった。

朝4時にリズちゃんの「ワンワン!(起きて!行くよ!)」で起床、
帰宅したら「ワンワン!(待ってたよ、早くいこう!)」

家を飛び出したら、自動操縦。ただただ伴走する。
家に帰ってきてガブガブと水を飲むまで走り続ける。
それがダルメシアンという犬だ。この運動量を維持できない人は飼ったらダメなやつだ!

雨の日も雪の日も晴れた日も走った。台風の日も増水する川を見ながら走った。
風邪をひいて熱が39℃あっても走った。とにかく毎日リズちゃんと走った。
雨や雪用に赤いカッパも買った。赤いエースのカッパだぞ!
(このサイズの犬にはあまり選ぶ権利がない。)

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これが今の自分のランニング生活を築いた土台。
しばらく運動もしていなかった自分もみるみるうちに痩せて健康体になった。
これが陸上競技もなんもやってなかった自分が走りだした理由。

リズちゃんが走らなくなった日

4年経ったある日、突然リズちゃんが走らなくなった。最初は少し体調が悪いのかなと思って近場で済ませていたが心配になって病院に連れて行った。年1回の健康診断以外病院には行かなかったリズちゃんの体にはガンができていた。

血管肉腫と言う犬にしかないガンで最悪の病気だった。

血管にできたガンを取り除く手術でもほぼ無理。それでも可能性にかけてやってみることにした。
1日7000円もかかる抗がん剤も飲んでいた。手術は1回60万円を超え半年で2回の手術を行った。
リズちゃんを見捨てることなんて出来ない。
私にできるのはお金を払うことだけ。毎週5万円近いお金を持って1週間分の薬をもらいに行く。

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リズちゃんは相変わらず走れなかったけど入退院を繰り返しつつ元気だった。

そんな時私はとても迷っていた。

もうお金が続かない。

半年で2回の手術、1日7000円の抗がん剤。
半年で300万近くのお金がなくなった。
私は貯蓄を切り崩したり車を売ったりして資金を捻出していたがもう限界だった。

迷いに迷ったけど私は決断した。

もう抗がん剤もやめて手術もしない。

これはただリズちゃんに無理をさせているだけで自分のエゴかもしれない。もう自然な形でリズちゃんの運命を決めようと、自分勝手な解釈もした。

動物病院の先生や看護師さんたちは決断を伝えた時にホッとしていたように思う。
車を売ってまで抗がん剤を買うサラリーマンがいなかったのかもしれない。
入院中の訪問は少しでもお金を節約するために家から30kmを毎日チャリンコで通うサラリーマンも見たことがないのかもしれない。

リズちゃんが走った日

抗がん剤をやめたらリズちゃんがとても元気になった。
以前のように走ろうと私を急かすようになりもとのように走れるようになった。

さすがに11kmは走らなかったけど大好きな多摩川に行って好きな芝生の上を走った。

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1ヵ月位でどこかの血管が破れて死ぬでしょう。そう先生に言われたが、2ヶ月たってもリズちゃんは元気だった。

リズちゃんが天国に行った日

桜が咲いてからもリズちゃんは元気だった。
何かの偶然でガンが治ってしまったのでは?と思ったりさえもした。
動物病院の先生たちももう一度検査させてください、とビックリしていた。
だけど検査はもうやめたんだ。
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マイコースの終盤には桜の並木がある。
そこで元気なリズちゃんを写真に撮った。

抗がん剤を止めて3ヶ月、5月28日。リズちゃんの容体が急変した。
昼間は元気だったのに苦しそうな声で呼ぶので見に行ってみるとお腹がパンパンになっていた。
きっとどこかの血管が破れたんだろう。

リズちゃんに付き添って8時間、5月29日の明け方、リズちゃんの旅立ちとなった。

ちょうど仕事が休みの前の日でこの日しかないと言う日にリズちゃんは旅立った。
最期の最後までチラリとこちらに眼を向けつつ、「そこにいるよね、どこにも行かないでね。」
と訴えているように見えた。
だから眼を開けなくてもいいようにずっと頭や痛そうなお腹に手を置いていた。
これが「手当て」っていうんだな。なんて思いながら。

呼吸がいよいよ止まりそうになっても、こちらを芯の強い眼差しで見つめていた。
動物は死の寸前まで耳だけは聴こえるそうだ。
ただリズちゃんは聴こえないから眼を開けていたんだろう。本当に強いコだ。

何度も飼い主に裏切られて不遇の4年間。そこから私のところに来て4年間。
楽しかったのか、辛かったのか?分からないけど、私の手の中で彼女は短すぎる人生を終えた。

私はリズちゃんを飼うと決めた時に読んだ「犬の十戒」を守り抜いた。
(リズちゃんは噛んだから守ってなかったけど。)

リズちゃんがいなくなってから

リズちゃんがいなくなってからしばらく何もやる気が起きなかった。

元気だった頃のリズちゃんの写真で「犬の十戒」の動画を作った。

youtu.be

何もしないのもリズちゃんに笑われそうだから、リズちゃんがいた時に一緒に走っていたように走ることにした。

これが今でも私が走る理由。

リズちゃん4回忌 マイコースラン!

5月29日にマイコースを一生懸命走った。
桜並木のあたりでやめそうになったけど、ここはリズちゃんの写真を撮った場所だ。
死ぬ気でペースアップ!
“Sub3″を目指して走り始めて今年の命日にPBを更新だ。

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来年はもっと速く走れるようになっているかな?
リズちゃん、痩せてからは追いつけなかった位、足の速いコだったからな。

私に「健康な人生」と「ランニング」という楽しみを与えてくれてこの世を去ったリズちゃん。

パパ、リズちゃんの分まで走って目標達成するからな。見ててな。

大きな「迷い」と、大きな「決断」が私の人生を変えた。
リズちゃんは今でも最愛の家族であり最高のランニングパートナーだ。

いつかまた一緒に走りたいな。

コメント

  1. taiyototuki より:

    泣けました。
    朝の満員電車の中で一人涙が流れてきました。
    まっさんさんと出会えてリズちゃんは幸せだったと思います。

  2. kazz-matsumura より:

    鬼丸さん 心優しい鬼丸さん、ありがとうございます。読んでいただけてリズちゃんの供養になります。なんか違う色の星までつけていただき恐縮至極です。不遇の人生(犬生?)を送らせてしまったのも同じ人間。今でも幸せだったのかなー、と考えます。満員電車の中で涙を流すアラフォー、きっと何人かが心配してくれたと思います!笑 ありがとうございます!

  3. oryokobo より:

    人間同士でもなかなか難しい深いところでの心の交流が、リズちゃんとまっさんの間で生まれ、そして失われていく感動のストーリーに朝からやられてしまいました😭
    リズちゃん、最高に幸せな人生(犬生)だったと思います。
    犬も人間も同じ、永遠の別れ、でも思い出も永遠で、心を温め続けるのでしょうね🙂

  4. kazz-matsumura より:

    おりょさん ありがとうございます。思い出も永遠。素敵な言葉をいただきました。リズちゃんの墓前でお話ししようと思います。思い出はいつも鮮明で元気な頃のリズちゃんのことばかりが浮かびます。人間、辛いことは忘れていくようになっていく、ということですが忘れてはいけないものもあるわけで。それ以上に楽しい日々があったので辛いことも思い出せるのかなあと思います。ありがとうございました!

  5. fujihirokun より:

    泣いた
    自分の人生を考えた

  6. kazz-matsumura より:

    ふじひろさん、過去のエントリー読んでもらってありがとうございます。リズちゃんはまぎれもなく私の最愛の家族で最高のランニングパートナーなんです。それは今も変わりません。
    ます少し続きもあって、リズちゃんが亡くなる1週間くらい前に長いこと子供のできなかった私たちに子供ができたことがわかったんですよね。すごい偶然だと思いました。リズちゃんと同じ女の子、毎日リズちゃんの写真を見てリンを鳴らしてくれますよ!

  7. ken-j より:

    ふじひろさんからの記事できました。
    リズちゃん、幸せだったでしょうね。
    ジーンときました。

  8. kazz-matsumura より:

    なんだかこの辺境の地のブログアクセスがなんもしてないのに伸びてる??と思ったらふじひろさんのエントリーからでしたね。
    私の走る理由、読んでいただいてありがとうございます。リズちゃんの供養になります。頑張って今日も走ろっと。

  9. 中年ランナー より:

    はじめまして。マラソンブログ巡りをしていたらこのブログにたどり着きました。
    マラソンの内容では無いのに、引き込まれ、読み終えて涙が止まらないです。私も2歳になる愛犬を飼っていますが、今まで以上に愛情を注いで過ごそう。という気持ちになりました。素敵なブログに巡り会えて感謝です。

  10. kazz-matsumura より:

    中年ランナーさま、愛犬のいる生活はとてもうらやましいですね、犬と共に過ごす生活を失うのは喪失感がとても大きなものです。一緒にいることが当然だとならないように、と言うのが飼っている時にわからないんですよね。今度犬を飼えるならば私も中年ランナーさんと同じ気持ちです!コメントありがとうございました。

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